夜は車や人が行き交い、イルミネーションに彩られるこの街も。
朝になれば街ごと眠りにつくように静かになる。少しの眠りを経た後は、やがて陽光が暖かく照らす頃に再び人が動き出し、街は少しづつ呼吸を始める。
今日は日曜日。
だからなおのこと、街はいつもより穏やかで、さらにゆるやかなリズムで時を刻んでいた。
午前9時。
は繁華街の手前でバスを降り、真っ直ぐに歩いていた。最近できたショップの横を抜け、するりと小さな通りに入って大通りを迂回する。横断歩道を渡った通りの向こう、しばらく歩いてつき当たるマンションの一角で立ち止まる。時間きっかりに。
行きなれたBar、WAYへの階段降り口の前。淵が作ったCLOSEDの看板が出迎えた。
「…なんだ。普通に休みじゃないの」
周りを見渡したが人は誰もおらず、石畳の歩道にぽつんとだけが佇んでいる。
フウ、とため息をつきながらは、コートのポケットを探り一枚のカードを取り出してそこにある字を眺めた。
事の発端はこの一枚の紙切れにあった。
でなければ休みのこの時間、わざわざここまで出向くこともない。
“日曜日の午前9時に、WAYの前で”
ただ一行、カードには書いてあった。右下には今日の日付が入っていたから、日曜というのは今日のことだ。
は紙片を見つめながら昨晩から今までの記憶をゆっくりとたどってみる。
昨日、少し遅くなった仕事の帰り、久しぶりにWAYに行って…何時だったか忘れたが、タクシーで帰って次の朝、酔いがとれて珍しく早起きをした。それから何気なくバッグから携帯を出そうとして、偶然見つけたのだ、このカードを。
そして、慌ててここへ来た。誰かが待っている、そのために私にカードをよこした。
だが、誰もいなかった。なんだったのだろうか、一体。
差出人の名前はない。筆跡で探ろうにもご丁寧に洒落た字でプリントされており、推測できなかった。
だが、これはWAYに行ったときに誰かがバッグに忍ばせたのだろうと確信する。仕事場を出るときはそんな物は入っていなかったし、あの店を知る人間は身近にはほとんどいない。
昨晩あの店には客はいなかったから…惇か淵ちゃんだ。多分。
(でも、どっちなんだろう…)
このご時世、別にメールでも電話でもいいのに。
自分に会うために、ずいぶん回りくどい事をすると思った。古風と言うのか、なんというか。格好をつけているだけかもしれないのだが。
ちらりと時計を見る。
9時15分。
単にいたずらだったのだろうか。
急には不安な気持ちになってきた。惇や淵がそんないたずらをするとは思えないのだが……。
もう一度、手にした名刺サイズのカードをが眺めていると、ふいにの後ろ側からクラクションが鳴らされた。
(……クラクションの音って、人間の耳には耳障りな音で聞こえるって聞いた事があるんだけど。)
一体誰よ。今人待っててイラついてるのに。
心で毒づきながら振り返ると、
≫ 近くで紺碧のスポーツカーが止まり、パッシングするのが見えた。
≫ 街路樹の側に小ぶりのクラシックカーが止まっていた。