ちゃーん!!」


車の窓が開き、そこから身を乗り出して嬉しそうに手を振る青年。


「淵ちゃん!?」

「アハハ!おはよう!!あ〜。良かったまだいてくれた〜!オレマジで安心したー。…あ!っと…ちょっと待っててな」


笑顔はそのままに、淵が慣れた様子でゆっくりと車を動かしてのいる場所のすぐ隣まで車をつける。


そして車から降りてきた淵は助手席側のドアを開けた。


「さっ、お姫様はこちらへどうぞ」

小さな年代物の車の前でうやうやしく礼をする淵が可笑しい。

がクスッと笑うと、つられて淵も照れ笑いした。

差し出された手にが手を重ねる。そのまま一歩を踏み出そうとして…

チカッと遠くからライトを光らせ、こちらに勢いよく飛ばしてくる一台の車が見えた。
紺碧の、スポーツカー。ガラスのウィンドウの向こうに見えるのは怒りの表情を見せる惇。


「淵〜〜!!!」


「げ」



とたんに慌てた表情になる淵。


「やべえ!!あ、あーっとちゃん!早く乗って乗って!!」

「え?え???何?何???あれって確か惇の…」

「あ〜!!話は後後!!!」

淵にせかされるままは急ぎ車に乗った。それを確認すると淵は慌てて運転席へと戻り、車を急発進させた。


「これも、持ってて!!後で食べるからさ」

投げるように手渡されたのは後ろの席に乗せてあった小さな紙袋。甘くていい匂いがする。多分お菓子か何かが入っているのだろう。

「兄ィは結構執念深いからなあ〜…振り切れるかどうか」

幸いにも先の信号は青だ。人もいない。

「ま。やってみるさ!!」

驚くほど手早くギアチェンジし、すぐさまアクセルを踏み込む。
美しい弧を描いて、きゅんとカーブを曲がる。


「きゃあぁっ!」

ちゃんゴメン!しっかりつかまっててな!」


マンションの前の通りから一度広い通りに出ると、真っ直ぐな道が続く。この車はたいして加速ができるタイプではない。後ろからはここぞとばかりにとばしてくるスポーツカーの影。

「淵ちゃん!なんだか追いつかれそうなんだけど!」

しかもさっき惇、怒ってなかった?
が訊いてみたが、淵は聞こえなかったのか答えなかった。

いくつもいくつも通りを曲がり、小さい車一台がやっと入れる程度の道へと逃れて行く。いつも見慣れた街だが、どこをどう走っているのか、よく分からなくなってきた。
細い道を次第に速度を落として淵の車が走る。淵の顔に、余裕が少しづつ出てきた。

「へっへっへっ。兄ィの車幅じゃ入ってこれないよな〜♪」

道の曲がり口で青い車が悔しそうに止まっているのが見えた。

バックミラーでそれを確認しながら楽しそうに笑う淵。


「…ちょっと淵ちゃん、一体何がどうなってるの?」

待ちぼうけから急にカーチェイスにつき合わされ、はわけが分からないといった表情で淵を見た。
淵はしばらく車を走らせ、適当なところで車を止める。ながら運転はよくないからと言って、道の脇に車を寄せた。

「うーん。まあ…話せば長くなるんで……割愛!」

「それじゃ車止めた意味ないでしょ!?ごまかさないでちゃんと話してよ!」

「恋は先着順〜♪とかなんとか」

適当な節を作って歌う淵。

「それじゃ全っ然わかんないんだけど!!」

「あ〜…ちゃんさ、あのカード見た?白いやつ」

「見たから来たんじゃない!」

だよね、と淵が笑う。

「それって、誰が作ったと思う?」

「え…?」

急に問いかけられての勢いが失速した。

「オレか、兄ィか」

「淵ちゃん…じゃないの?」

「うん」

「ええっ!?」

「でも、先に着いたのはオレ」

「ど、どういうこと?」

「誘ったのは兄ィだけど、別に兄ィじゃなくたって、ちゃんを誘う権利はあるって事さ」

「それって…」

「まぁ、つまりさ。兄ィよりも先に、ちゃんをさらっちゃった♪みたいな」

「えええええええええええええええええ!?」

「イヤだった?もし迷惑だったら…ゴメンな」

「そ、そんな事はないけど…」

髪に手をやろうとして下を向き…はさっき手渡された袋が自分の上で潰れているのに気づく。

「!あ〜〜〜!!!」

甘い匂いが車の中に広がっている。白いクリームが袋からはみ出して自分の服についてしまっていた。
中身はケーキだったらしい。
先程のカーチェイスの時に、急カーブやら猛スピードやらでしっかりが抱きかかえてしまったためだ。
無残にも白いクリームが散ってしまっていた。


「え、淵ちゃんごめん!!どうしよう!!せっかくのケーキが」

「あ、いいって!!オレっちが乱暴な運転したから。それよりゴメンな!ちゃんの服汚しちゃって…」

「服なんかいいわよ!あ〜…もったいな〜い…」

「ん〜…一口ぐらいなら食えそうだけどなあ…ほら」

淵がの手を取り、指に残ったクリームを舐めた。

「きゃぁあっ!!…淵ちゃん〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」

「アハハ!!今日はいい日だ〜」

「もう!ふざけてないで真面目にやって!!」

ちゃん…」

ふっと淵の目が真剣なものになっていた。思わずどきりとする

「食べちゃうぞ♪」

…全っ然真面目じゃないし…

「本気さ」

そう言って淵はの耳元に唇を掠めさせた。
体の内側から何かがざわめくような感じに、は身を震わせた。

「!!…もう…っ」

「オレだって…男だから。悪ぃけど兄ィに負けるつもりはねえからさ」

淵が見せた笑顔は何時にも増して艶めいていた。










淵夢ルートでした。ちょっと暴走。ブルラグ書いてる途中で選択式にしようとか思いついたので途中で強引展開に。
惇とは違ったテイストで楽しんでいただければ幸いです。



Jan.1,2006 モユ拝



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『空中洋裁店・紬や』 のモユ様よりのお年玉(〃▽〃) 淵ちゃんルートです。

・・・やべぇ!!!!!

淵ちゃんってばカッコ可愛い過ぎる!!     「うん」て!「うん」って!!!
マヂ鼻血噴出しそうになりましたッ☆彡(爽笑)

こんな風に…手が込んでるのにそれでいてシンプルな思いを彼ら(敢えて複数形・笑)にブツけられたら。。。ねぇ?

                               貴女なら…どうします?(含笑)



"You are here, so am I
 Maybe millions of people go by But they all disappear from view
 And I only have eyes for you..."



                             I ONLY HAVE EYES FOR YOU/Zapp ('85)