月の宴





「あー、またサボってるー」

「げ、姫さん」

中庭の大木の上で昼寝をしていた

甘寧を見つけた尚香は頬を膨らませた。

「呂蒙が探していたわよ。

今夜は十五夜なんだから甘寧も手伝いなさい」

「ああ、もう少ししたら行く」

「もう少しって何時よ。

あんまり呂蒙を苛めないでよね。

胃が痛いって言ってたわよ。

我が軍の大事な軍師さまの一人なんだから気を使いなさいよ」

甘寧は身を起こして頭を掻いた。

「姫さんに説教されるとはな…」

「何よ、あたしが説教して悪いの?」

甘寧は大きな欠伸をした。

そして大きく伸びをする。

「へいへい、行きますよ」

軽々と木の上から飛び降りると甘寧は尚香の傍に着地した。

「おっさんの胃痛は姫さんにもあるんじゃないっすか?」

「そ、そんなことないわよ。何故そう思うの?」

ちょっとどもりながら尚香は聞き返した。

「こないだ黄蓋さまがおっさんに愚痴ってたぜ」

「たまに息抜きしたって良いじゃない」

「オレもそう思ってんすけどね」

甘寧は楽しそうに尚香の表情を伺った。

尚香はそんな甘寧の仕種にそっぽを向いた。

「尚香さん、甘寧さん」

突然、後ろから声を掛けられ2人は振り返る。

「お義姉ちゃん?」

「良かった〜。皆さん、お探しでしたよ」

2人を見つけた大喬はすごく嬉しそうだった。

甘寧と尚香は申し訳なさそうに顔を見合わせた。

(この人が相手じゃな…)

(お義姉ちゃんに心配は掛けられないな)

まるで悪いことをしていたような錯覚に陥る。

「孫策さま〜連れてきましたよ〜」

嬉しそうに夫の元に駆け寄る姿を見つめながら尚香は呟く。

「お義姉ちゃんまで出てきゃ戻らないわけには行かないよね…」

「ああ」

「でも、みんなで何かするって楽しいよね。

今夜は晴れてくれるといいな」

空は雲一つない晴天だった。

「綺麗なお月さんを見れるといいな」

「うん!」

今夜は十五夜だった。





秋の風にススキが揺れていた。

空には美しい満月が輝いていた。

「孫策さま」

空になった杯に大喬は新たな酒を注いだ。

「すまないな」

杯の酒に月が映った。

「大喬、お前も飲むか?」

「はい」

珍しく大喬は孫策の手から杯を

受け取り月を映した酒を一口、口に含んだ。

「綺麗なお月さまですね」

「ああ、晴れて良かった」

目前に捧げられた色とりどりの

果物や穀物が秋の訪れを感じさせた。

風が冷たかったがそんなことは気にならない。

「孫策さま」

「オレにとっては月よりもお前がいいな」

「孫策さま、酔っていらっしゃいます?」

月も光を消し花も恥らうと称された

ニ喬の片割れを腕に抱いて孫策は笑みを浮かべた。

「こうしているのも悪くねぇな」

「はい…」

頬を朱に染めて大喬は孫策の腕に寄り添った。

美しい満月が2人を照らしていた。





「この月餅はお姉ちゃんと一緒に作ったんだよ」

「なるほど」

少し不恰好だが味は悪くはなかった。

小喬が作ったのだとすぐに理解できた。

「うまいな」

「良かった〜」

小喬は嬉しそうに周瑜の首に手を回した。

「しかし、君がやらなくとも侍女に任せれば良いのではないか?」

「ううん、あたしもお姉ちゃんも

大好きな人に食べてもらいたいの。

それにね、お父様が自分のことは自分でするようにって」

「そうか」

妻の手料理を食べれることに不満はない。

むしろ嬉しかった。

「あたしも食べようっと」

美味しそうに小喬は月餅にかじりついた。

季節の果物も穀物も美味しく実のっていた。

「今年も感謝しなくてはな」

「うん。こんな美味しいもの食べれるんだもんね」

周瑜と小喬は空を見上げた。

「お月さま、今年も美味しいものありがとう!」

「ははは、そうだな」

豊穣を感謝して行われる十五夜の夜は更けて行く。












こちらの背景は 「 Kigen 」 様よりお借り致しました。




藤井 桜 様のサイト  「 幻 想 遊 戯 」 様にて「3周年記念」として
フリー配布されていた作品を戴いて参りましたv

秋の夜長。月明かりの元。…いいですねぇ(*´ー`*)
桜さんの書かれる呉の人たちってホント仲がよく、読んでるとふふふvと思えます。
――仲がよい、と言うより"絆"かな?


桜さん、サイト3周年おめでとうございます!
こんな「流れ」の早い中でサイト3年も続けられるって凄い事だと思います。
そして素敵な作品を配布下さってありがとうござます〜!!(*^-^*)