夜中にフッと目覚める事がある。


あなたに会う以前ならば、何のことはないように再び瞳を閉じて眠りに没頭するのが常だった。




だけど、今は違う。




【 睦 言 】




張コウは、大切な宝物を独占するかのように、己の腕に抱く彼女に視線を落とす。
眠りにふけるを見ると、彼女は幸せな夢でも見ているのだろうか、
口元に小さな笑みを湛えていた。

可愛く思った張コウは、その微笑みにそっと唇を寄せてみる。


柔らかいものが触れ合った。


は目覚めない。


夢を見ているのだとしたら眠りは浅いはずなのに。


白い頬に人差し指を伸ばした張コウは、ぷにぷにとつついてみた。

つきたての餅のような柔らかな感触が気持ちいい。


は眉間にしわを寄せ、うん、と唸って煩そうに張コウの手を退けるが、
すぐに夢の世界へと舞い戻り、柔らかな表情を作る。

彼女は今、余程幸せな夢を見ていて、目覚めることを拒否しているかのように張コウには思われた。

そんな彼女を起こしてしまうのは気が咎めるが。


が夢で得る幸せに張コウは強い対抗意識を抱いた。


どんな夢を見ているのか知る由もないが、に最上級の幸せを与えることが出来るのは
自分だけなのだ。

負けてなるものか、と張コウはの上になると、再び唇を奪う。


今度は覆うように深く口付ける。


無抵抗の唇を割って舌を挿入すると、いまだ覚醒していない彼女の口内をたっぷりと堪能する。


「……んっ……」


彼女は息苦しさを感じるのか、無意識に張コウから逃れようとするが、
張コウは構わずにその唇を支配し続ける。

手は自然と彼女の身体に優しい愛撫を施していた。

馴染んだ感触を確かめるように細い肩から腕へと滑らせる。

やがて、小さな手に到達すると、指を絡めて握り締めた。

眠りに就く前も散々彼女を啼かせたが、を前にすると張コウの熱は冷めることを知らなかった。


唇は貪欲さを増し、いっそう激しくを貪った。


するとさすがに違和感を覚えたのか、は薄く目を開けた。


張コウは顔を離す。


「ああ、起こしてしまいましたか」


確信犯のくせに、白々しく言ってのける。

だがはまだ充分に覚醒しきれていないのか、何度か緩慢な瞬きを繰り返した。

ぼんやりとした瞳に張コウを映す。


「……張コウ?……」


寝ぼけたようなの呼びかけに、張コウは笑顔で応える。

「はい」

はもう一度長い瞬きをして張コウを見る。

何をしているのか、などと問う必要はなかった。

仰向けに寝ているのだから天井が見えるはずなのに、目の前には張コウの顔がある。

その事実だけで今の今まで張コウがしていたことなど知れたことだった。

部屋内の暗さから、今はまだ真夜中とみてとれる。

カタカタと、微風が戸を揺らす音のみが聞こえた。


(まったくこの人は……)


は苦笑した。

真夜中に目が覚めてしまった張コウは、一人で起きているのが嫌だったのだろう。

張コウには、たまにそういう子供っぽいところが見受けられた。

それを「しょうがない」と許してしまえる自分は甘いだろうか。




張コウはの髪に指を絡ませるようにして梳く。

「なんの夢を見ていたのですか?」

問いかけに、は首を傾げる。

「夢?」

「ええ、幸せそうに笑っていらした」


「……」


は瞼を伏せて考え込む。


「……」


やがて、張コウに微笑んだ。

「夢は見ていた気がするけど、どんな夢かは忘れちゃったわ」

夢とは普通そういう儚いものではないだろうか。

目覚めの一瞬後には忘れてしまうような泡沫の幻。




「でもね、何となくなんだけど……張コウの夢を見ていた気がするの」




は張コウの頬に手を伸ばしてそっと触れた。


張コウは驚いたように眉を上げたあと、フッと目を閉じてを包み込むように抱きしめた。


殿」


張コウの声が身体に直に響く。

「嬉しいことを……私、自惚れてしまいますよ?」

は広い背中に腕を回した。

「それは大変」

今だって自惚れが過ぎるのに、とは笑った。

「減らず口を叩くのは、この口ですか」

顔をあげた張コウはの唇を塞ぐ。

先ほどとは違い、覚醒しているの口内は確かな意思を持って張コウを受け入れる。


静かなる闇の空間に、互いの口を吸い合う音が甘く響き渡る。


蕩けるような口付けは、に再びの眠りを誘った。




やがて名残惜しむように離れていった美麗な顔には願う。


「……もう、眠って……」


は訪れた睡魔に意識を添わせるように目を閉じた。

張コウは紅を塗るようにの唇に指を滑らせる。




「また、私の夢を見てくださいね」




もう起こしたりしませんから、と閉じられた瞼に口付ける。




規則正しいの寝息を子守唄代わりに、張コウもゆっくりと眠りに落ちていった。


〜fin〜




―あとがき―


短くて、すみません。






BGphoto Thanks≫「 AOXT Free Photo 」



いばらさんのサイト 「美印不良品」様にて5000打記念にフリー配布されていた作品を戴きました〜vv
うへへへへへへ(〃▽〃)←バカ

張サマの確信犯的行動。甘い執着。
「コノヤロウ」と思いつつ頬が緩むのはワタシだけでは無い筈。 ―うん、確信(笑)

この作品の主人公はいばらさん宅の長編がベースとなって居りますので、是非リンクよりお出かけ下さいませ♪
いばらさん ステキ作品ありがとうございました(*^-^*)