+++ 杜 若 +++



「態々岩落とせってか?」
「駄目?どうしても?」
が夏侯淵の腕に掴まって何やら強請っているらしい事は遠目にも明らかである。
「危険ですぞ」
「張遼さんも駄目ですか・・・」
「他の事ならば何なりと」
彼女は次に捉まえた張遼にも断られ
「じゃあちょ・・・」
「なりません!」
張コウにも即答され
「やっぱりこういう時は徐晃さんしか」
「拙者も賛成致しかねる」
彼女の切り札だったらしい徐晃も首を横に振った。

「じゃあ惇兄に頼も」
失望したと顔にはっきり書いてある彼女をこのまま行かせるのは、男として如何かとは思うが
「惇兄も駄目だって言うぜ?」
「惇兄は他の人と違うもん」
夏侯淵の言葉を以ってしても彼女を引き止めることは出来ず

「けち」
「なっ・・・」
「拙者は殿を心配して・・・!」
振り向きざまの一言で夏侯淵と徐晃をうろたえさせ
「意気地なしー」
「お言葉が過ぎますよ!」
「困りましたな・・・」
二言目で張コウと張遼を苦笑させた
「お願いお願い!岩砕き見たい!」
勢い良く手を合わせて目を瞑り
「・・・どーするよ」
鼻を掻く夏侯淵の結論はもう出ている。

「そうまで仰られては弱い・・・」
「失敗さえしなければ良い訳ですからね」
徐晃も張コウも既に諦めている以上
「仕方ありませんな・・・」
張遼も勝ち目の無い交渉を何時までも続けるような男ではなく

「やったー!!」
「一度きりだぞ?」
やれやれと溜息を吐きながら上を見上げた夏侯淵は
「・・・岩が無ぇんだよな」
ぽつりと呟いて顔を顰め
「そうですね・・・」
「岩が無くても良いのでは?」
考え込んだ張コウの隣で、張遼は地面についた黄龍鉤鎌刀に体重を預けている。

「あぁ!それなら何度でも御付き合い致そう!」
それだ!と頷いた徐晃が
「それで如何で御座るか?!」
に振り向いた頃には

「・・・殿?」
「あ・・・なんかそれ良い・・・」
彼女は口元を両手で多い、僅かに赤い顔で張遼を見詰めていた。

「意味解んねぇぞお前」
「や、新鮮・・・」
「・・・何かしましたかな・・・?」
「特には何も・・・?」
解せないままの張遼を見ながら、徐晃は白虎牙断をひょい、と肩に担ぎ
「岩が無くても良い、と仰っただけで・・・」
唸りつつも慣れた手付きで柄の部分を首の後ろに回し
そこに両手を添えてちら、とを見遣ると

「やぁ・・・それもなんかちょっと・・・」
「・・・殿?」
「ややや、お構いなく!」
彼女は更に赤い顔でぶんぶんと手を振っている。

「どうした?」
殿が喜んでおられるのですが・・・私達には何の事かさっぱり」
通りかかった夏侯惇も鍛錬帰りなのか、滅麒麟牙を片手に汗を拭い
「惇兄、解けてるぜ?」
「あぁ」
手に巻かれていた包帯を口でくい、と引っ張った。

「のぉー!!」
「お前大丈夫か?!」
口をぽかんと開けたままの夏侯淵は
「いやー!もうどうしよう?!何これ!ナシナシ!」
「っとと痛ぇなオイ」
興奮も最高潮のにべしべしと腕を叩かれ

「女心ってのは解らん・・・」
「そうですな・・・」
相変わらず黄龍鉤鎌刀に凭れて笑っている張遼と
殿が喜んでおられるのならばそれで良いでは御座いませぬか」
岩砕きが流れた事にほっとしたらしい徐晃と
「変な奴だな」
まだ巻き終わらないらしく包帯を銜えたまま小さく笑った夏侯惇が

「きゃー」
「何処行くんだオイ」
更に彼女を喜ばせるとは思っても居ない訳で

「・・・行ってしまわれましたな」
「何だありゃ」
「放っとけ、その内戻る」
「惇兄は心配じゃねぇのか?あいつ可笑しいぜ」
笑う徐晃達の後ろで、暫し黙り込んでいた張コウは

「武器と慣れ、ですかね」
この場に居合わせた唯一の軍師として、この状況を分析していた。

「何だそりゃ?」
殿の世界では通常有り得ない光景なのでしょう」
「らしいな」
張コウの言葉を聞きながら包帯を巻き終えた夏侯惇が顔を上げると
「見慣れない物故に魅力的だと錯覚なさるのではありませんか?」
「錯覚と言い切られては些か切ない」
張遼はふっと笑って黄龍鉤鎌刀から体を離す。

「成る程、な」
「悪用したくなりますね」
張コウが不敵な笑みを浮かべると

「・・・俺達にとってもありゃ見慣れねぇ奴だよな」
「どういう意味だ?淵」
「自分に聞きゃいーだろ」
含みのある笑みを浮かべる彼等の耳に

「岩砕きやってー!!」
嬉しげなの声が飛び込む。

「わしゃ忙しいんだ!」
「許チョさんは?」
「おらも殿に呼ばれてるだよ〜〜〜」
「じゃあ司馬懿さん探そっかな」
もう彼等に依頼した事を忘れているのか、それとも意図があっての事なのか


「お前の行動は読めん」
「あ!ちょっとお願いが・・・!」
ここで彼等に気づいたが駆け寄って来るのを

「・・・どうするんだ?」
「勿論断りますよ」
「お前等も底意地が悪いな」
腕を組んだまま待ち受ける彼等は

「で、もう一度喜ばせてやるのか?」
「錯覚が感覚に変わるまで何度でも」
顔を見合わせて笑った。







未央様のサイト 「Bitter Chocolat」 にて
五萬打(!)記念フリー配布の夢小説を速攻奪取「その2」(笑)です(〃▽〃)

「のぉ─────!!」
…主人公じゃなくてもこう悶えるっツーの!←素(殴)
いやんvもうvv…なんてこうもツボ突きまくりなんでしょう(〃ω〃)
武勇だけじゃなく、人間としての懐の大きさも滲み出てる。
素晴らしき魏将の方々の雄姿を拝ませて戴き、シアワセにござります〜(*´ー`*)(*´▽`*)

こんな素敵な作品を配布して下さった未央様に心より感謝♪